Symphony Nr.9 e-moll"From the New World"op.95
(交響曲第9番ホ短調『新世界より』op.95)
第23回定期演奏会
作曲 Antonin Dvorak
作曲時期 1892年12月19日〜1893年5月25日
初演 1893年12月15日 / ニューヨーク
所要時間
第1楽章 9:27
第2楽章 11:54
第3楽章 8:07
第4楽章 12:20
合計 41:19
2004年 / 井上博文指揮都立西高等学校管弦楽部の録音
編成
Fl Picc Ob Cl Fg Hr Tp Cor Tb Tub Timp Ehr
2 × 2 2 2 3 2 × 3 × 3 5 Ob 1st(2nd mov.)
'・*:★独断と偏見に満ちた雑文的楽曲解説★:*・'
世界交響曲はドヴォルザークが出会った新天地の感動を曲にしたものである。ドヴォルザークと言えば民族楽派のボヘミアの代表作曲家である。作品創作期は頻繁に原住民インディアン(ネイティブ・アメリカン)や南方プランテーションの黒人たちの民謡をよく調べ、スケッチにまとめていた。ただ当初はそれの使い道がなくそのままにしていた。知人たちの勧めによりそれらを使った交響曲を創作することを決意する。それがこの新世界交響曲である。構成としては何の変哲の無い通常の交響曲の形式にのっとっている。第1楽章と終楽章はソナタ形式で、第2楽章に緩徐楽章となり第3楽章はスケルツォを挿入している。しかしやはりこのアメリカ民謡を取り入れたというのが新たな試みといえる。従来の形式にこれだけの革命を起こしたのだから実に意味の有る作品である。

かしこの作品の反響は賛否大きく分かれることとなった。一派はこの交響曲の肯定派で民謡より得た動機を見事に消化しているラプソディー的な曲であるという考え方である。一方それに反論したのが、当の民謡を歌っていた黒人・原住民たちである。確かに民謡の動機を使用したがドヴォルザークの故郷ボヘミアの香りが漂う、あくまでもボヘミア民俗音楽である、という見解である。この論議は評論家、聴衆、果てまた指揮者・演奏者達までも惑わせることとなる。それに対し7年後ドヴォルザークはそれらにこう一括した。
「私はただこれらのアメリカ国民音楽の旋律の精神で書こうとしただけだ」
それによってこの論争は終結した。

使用した民謡であるが、いわゆる黒人霊歌というものである。これらの編纂に加担したのがバリトン歌手H.T.バーレーと評論家ジェイムズG.ハネカー、そしてジャネット・サーバー夫人である。このようなエピソードがある。黒人霊歌を歌ったバーレー氏に対しドヴォルザークは「ちょっとまってくれ、本当に黒人たちはそう歌っているのかね?」と念を押した。それだけアメリカ民謡に執着があったのだ。中でもドヴォルザークが最も気にいったのは「Swing Low,Sweet Chariot(揺れよ,懐かしのチャリオット)」である。これは第1楽章に登場する。

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'・*:★第1楽章;Adagio-Allegro molto★:*・'
Andante・8分の4拍子・ホ短調の序奏部と、Allegro moltoのソナタ形式の主部を持つ。序奏部はヴィオラからコントラバスの弦楽アンサンブルによって緩やかに現われ木管へと受け渡されるが突然のffによって大合奏が始まりそのまま主部へと流れ込む。ホルンに威厳に満ちた第1主題が奏でられ楽器を変え受け渡されていく。前述のSwing Low,Sweet Chariotを転用した第2主題がフルートによって提示される。展開部・再現部でも実にこれらの2つの主題が効果的に使用される。しかし第2主題を見るとたとえ黒人霊歌の旋律にインスパイアされたからといってもオリジナル性にかけることなく、むしろ旋律作曲家の名高いドヴォルザークの魅力が全面に押し出される。

MIDI

mp3(井上博文指揮西高管弦楽部)
第1楽章;Adagio-Allegro molto

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'・*:★第2楽章;Largo★:*・'
新世界交響曲の中で最も有名でロマンティックさ、甘美さ、美しさどれをとっても突出した出来を誇る緩徐楽章である。変ニ長調・4分の4拍子・ロンド形式。ドヴォルザークはこの第2楽章を作曲していたとき客人が目の前にいても無視し朝から晩までピアノにかじりついていたという。しかし狂ったようにある旋律をピアノと共にドヴォルザーク自身が浪々とうたったという。開口一番客人に向かって「どうだ!!美しい音楽だろう!!」実に誇らしげに聞いたという。それこそがこの第2楽章の主要主題である。その主要主題がイングリッシュホルンによって高らかに、それでいてつつましく奏でられる。特徴的なのはやはりこの交響曲で唯一出てくるイングリッシュホルンであろう。主部を終えると様々な主題が奏でられる。チェロによる嬰ハ短調の主題はアメリカ大草原の夜明けを表現しているとか。実に物語り味も備えた秀作である。フィナーレでは第1楽章第2主題、そうあのSwing Low,Sweet Chariotの主題が大合奏で奏され静かな終結部に移る。ソリストたちによる3重奏が実に感動的に奏され静かに曲を締めくくる。

MIDI

mp3(井上博文指揮西高管弦楽部)
第2楽章;Largo

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'・*:★第3楽章;Scherzo.Molto vivace★:*・'
激しく狂喜に満ちた序奏からはじまるスケルツォである。Molto vivace・4分の3拍子・ホ短調のスケルツォ型3部形式である。原住民インディアンたちが陽気に歌いながら踊る様を想像させる実に溌剌とした主部と喜びに満ちた2つのトリオが存在し、どちらも明るく民族性に溢れたスケルツォに仕上がっている。楽器の使用法も実に巧みでトリルやトライアングルが'諧謔性'をよく見せる。

MIDI

mp3(井上博文指揮西高管弦楽部)
第3楽章;Scherzo.Molto vivace

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'・*:★第4楽章;Allegro con fuoco★:*・'
最終楽章を飾るにふさわしい壮大で豪華な曲である。Allegro con fuoco・4分の4拍子・ホ短調でソナタ形式。ホルン・トランペットによる印象的な第1主題はおそらくほとんどの方がご存知だろう。この第1主題が形を変え激しさを生み聴くもの興奮に導く。興奮は一時収まるとクラリネットによる流麗な第2主題へと移る。壮大な小結部を向かえ展開部に移るのだがこの第4楽章のおもしろいところは今までの楽章の主題が様々なところで顔を出すところに有る。いきなり第1楽章の第1主題が現われたかと思えば第2楽章の主題が形を変えたり、時には第3楽章の音形が伴奏になったりもする。実に聞いてておもしろい楽曲である。展開部での高揚をそのまま再現部へと持って行きトロンボーンが激しく第1主題を吼える。しかしその後はまた静かになり第1主題、第2主題、ついには小結部までも静かな曲となり収束していく。がホルンの激しいファンファーレを皮切りにすさまじいフィナーレとなり大合奏にて壮大な幕を閉じる。まるで新天地への興奮を後世へ伝えるかのようにドヴォルザークの思いを余韻にして。

MIDI

mp3(井上博文指揮西高管弦楽部)
第4楽章;Allegro con fuoco

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述のようにこの交響曲は新天地の感動をそのまま曲にした情熱音楽である。生涯をただの西洋音楽ではなく民族の熱いスピリットに魅せられそれらを音楽にしていった偉大なる民族楽派作曲家ドヴォルザーク。

だこの交響曲は凡作だという見方もあるらしい。というのも展開が乏しいというのだ。ほとんどが主題の転用だけでそれに頼ってあっと驚かせる演出が無い。しかし僕はそれに異論を唱えたい。第4楽章を見れば判るように他の楽章の主題にもかかわらずこれだけ効果的に挿入することが音楽的に乏しいといえるだろうか。それにこの曲は主題からもドヴォルザークが感じた'アメリカ'が見えてくる。うっすらとではない、鮮明にだ。それで十分ではないか、この交響曲の何がいけないだろうか。作曲家の感動を僕はこの曲よりしかと見届けた。

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