●ミッチーのラコステ●

[NPO用語大辞典] [NPO人名大辞典]

○第8回 合宿病

去年のこの時期に、私は合宿病というものにかかってしまった。
楽器が大好きになってしまい、部活をやりたくてしょうがない、という恐るべき症状で、発作のように断続的に起こるのではなく、常に部活に飢えているという手に負えない病気だった。記念祭本番に向けて少しずつ病状も落ち着き、公演が終了した後はまた元通りになったので、私はその病気の存在をいつしか忘れてしまっていた。
だが忘れていたが故に、思い出したときにはすでに遅かった。
そう、今年もまたかかってしまったのである。
合宿の何が私を部活へと駆り立てるのか、詳しい原因が分からないからこそ改善が難しい。そこで、去年の合宿のことも少し記憶の底から引っ張り出しつつ、落ち着いて今年の合宿を思い起こしてみた。
まるで超高速で強力な台風が過ぎ去ったかのような激しい4日間であった。特に、去年と比べると余計にその「あっという間」加減が激しくなっている気がする。長い夜を一睡もしないで過ごした最終夜でさえ、ちっとも長いなんて思わなかった。いやむしろ、もっともっと時間が欲しいとすら思った。寝る時間も含めて。
確かに私は合宿に行く前からかなり楽しみにはしていた。去年よりも更に仲良くなった仲間達と過ごす4日間。どれだけ素敵でどれだけ充実した日々を過ごせることだろうとわくわくしていた。出発前夜は興奮して眠れないというまるで遠足前夜の小学生みたいな失態を家族にさらしてしまった。
そうして、多大な期待を持って魚眠荘にやってきた1日目。今年はTp.にもOGさんが来るということで私の心はますます浮き足立っていた。そう、本当に浮かれていたのだ。けれど、そのテンションは最初の個人・パート練で早くも下げられた。
基礎練も一通り終わって、休憩時間中にOGさんに聞かれた一言。
「今日はどこやりたい?」
そうだ、OGさんは仕切るのではなくあくまで見てもらうのであって、やりたいところはトップが言わなければならないんだ、と私は慌てて楽譜を開いた。だが、そこに並ぶ書き込みの羅列を追ってみても答えを発することがすぐに出来なかった。やらなければならないところや、見てもらわなければならないところはたくさんあったはずなのに、どれが一番ヤバイとかこれは絶対にすぐ見てもらわなければ、というものを自分の中で整理していなかったので、咄嗟に答えられなかったのだ。とりあえず、思いつくままに「これとあれとあそことここ」みたいに言ってその場はしのいだものの、実はかなり私は落ち込んだ。ついでに、その日のうちに露呈した基礎練不足という事実にも結構ショックを受けた。たいしたこと無い忙しさにかまけて1年生を見てあげていなかったことが強い後悔の念となって私の心を苛んだ。
ここだけの話、実は私は1年生にかまうことに恐怖を感じていた。必要以上にかまうと嫌がられるんじゃないかとか他人からみたら訳の分からない感情(でも私の中ではかなり深刻なこと)で、1年生には必要最小限のことをべらべらと喋って「あとは個人でやっておいてね」みたいなことを繰り返していた。だが、それで一番被害を受けるのは1年生だということに、今更ながら私は気づいた。私が今までやってきた行いのせいで他でもない1年生が被害を被ることになったのだ。
けれど、後悔先に立たず、という言葉通り前日までのハイテンションを思い出して何とかプラス思考に戻った私は、とにかく今からでもきちんと1年生を、いやパート全体を見渡そうと思い直した。俗に言う「パートトップの自覚の誕生」である。今更遅いと言われてもしょうがない。過ぎてしまった時間は戻らないのだから。
まずはとにかく、全奏中や分奏中などに自分の演奏だけでなく、パート全体の演奏を気にするように心がけた。今までも少しはやっていたつもりのことだけれど、さらに意識を深くするといろいろな改善点が見えてきた。そして、1日が終わった後の反省会で、その日にやった曲の注意点をおさらい。わざわざルーズリーフにまで書き出したりするのは、面倒くさがりの私としては結構大変なことだった。OGさんにはいろいろと耳の痛いことも言われたが、いちいち落ち込まずに貪欲に取り込もうと書き留めたりした。普段なら確実に嫌になってすでに投げ出していたであろうあの状況で自分ががむしゃらにやっていたのは今でも不思議でしょうがない。多分、自分の好きなことだからあそこまでできたのだろうが。
だからこそ、その後のトップ会でも積極的に意見を言ったりできたのだと思う。実はフレーズ練というのは私の元中でちょこっとやってたことだったりする。(そうでなかったら私の堅い頭からあんなアイディアはひねり出せるはずがない。)それに、Cb.とHr.はトップ同士で相談してすでにやっていたというのだから本来なら別にトップ会で言わなくても自分達で進んでやらなければならないことだったのかもしれない。何はともあれ、私の意見も含めて、トップ会で出た意見がすぐに反映された次の日に、私は一段と部活に対する愛が深まった気がした。「こんなん言ったって誰も聞いてくれないよな…」とか思ってしまった自分を恥ずかしく思った。
しかし、そのフレーズ練で私はまた自分の過去の行為を恥じることになる。そもそもフレーズ練とはパート練がしっかりできていなきゃあまり意味が無かったりする。それなのにうちのパートは見事にバラバラで「まずTp.で合ってないんじゃない?」なんて指揮者に言われてしまった。私も恥ずかしかったけれど、その前にパートの人が可哀相だと思った。何も考えずにパート練を怠ってきたのは他でもないトップなのに、そのせいでこういう事態に晒されたのだから。学校に帰ってからの課題がまたひとつ増えていった。
今考えてみると、今までの先輩達もこんな風にしてやってきたのだなぁと思ってその苦労に脱帽してしまった。私達が大部屋でのんびりと友好の輪を広げていた間に先輩方はトップ会に出て、更に次の日の練習のことを考えて、とさまざまな仕事をこなしていたのである。予定を話し合う指揮者に混じって話をしていた先輩もいるかもしれない。それでも翌日には何事も無かったかのように私達と同じ練習をして過ごしていた先輩を改めて素晴らしいと思った。1年生と2年生、先輩と後輩の間には確かな違いがあることに気づいた。そしてそれと同時に、その伝統を引き継がなければいけないんだ、という責任感にも似た思いが私の心の中に芽生えた。
こうして、「できたこと」よりも「やるべきこと」のほうを多くお土産に抱えて戻ってきた合宿は、私を少しは成長させたようだった。
さて、ここまで読んできた人の中で「どうしてあんた、合宿病になったのさ?」なんて思う人もいるかもしれない。確かに、何だか否定的なことばっかり書いていて、あまり部活を好きになれそうな要素など見つからない。けれど、実はこれで私は部活大好き、という症状に陥っているのだ。と言うより、部活やらねば、という症状だろうか。
恐らく合宿前までは、やることを上手く見定めることができずに曖昧に過ごしていたのかもしれない。だからこそ、合宿で具体的な「やるべきこと」を見つけたから、それをやることによってまたさらにTp.パートが上手くなると分かったから、やらなければならない、という義務感が生まれたのかもしれない。そして、やっぱり去年と同じように楽器それじたいをまた好きになってしまったから、義務感もちっとも圧力を感じず、むしろ新たな楽しみとして私の中で受け止められているのかもしれない。
全て憶測だけれど、私の考える合宿病の原因はこんなところである。
そして、もうひとつ大きな理由を付け加えるならば、去年よりもまた距離が短くなった仲間との親交である。
部員の内面に触れて、それが第一印象と違って「あれ…あの人ってこんなんだったんだ…。」とカルチャーショックを受ける、なんて去年みたいな劇的な変化はあまり無かったが、音楽に対しての姿勢だとか、自分の精神的な悩みだとか、そういうことをお互いに吐露し合える関係が心地よかった。どうしてこの部活ってこんなに良い人ばっかりなんだろう、と泣きたくなる夜もあった。
そんなこんなで、私はまたこの部活を単純に「最高だ」と感じてしまって、そしてまた単純に「頑張ろう」と思ってしまっているのだ。

合宿は確かに通過点だけれども、でもその大きな通過点の為にすごく頑張ってくださった方がいることも書き留めておきたい。(BBSではるかさんに先を越されましたが…/苦笑)

中心となって仕切ってくれた合宿係、宿の人と顧問と部員との狭間で本当に大変だったことと思います。お疲れ様でした。
西高のみならず西湖まで来てくださったOB・OGの方々、懸命な指導をありがとうございました。またこれからもよろしくお願いします。
4日間休まる暇の無かっただろう指揮者の方々、各パートの意見をすぐに採り入れたり、演奏しやすいようにイメージを膨らませたり…感謝の気持ちで一杯です。
合宿に潤いを与えてくださったレク係、去年とは違った斬新なアイディアで和ませてもらいました。ありがとう。
まりさんが旅だってしまったことで名実ともに部長としての道を歩み始めたつくしくんとそれを支えていた副部長のお2人、当たり前だけれど忙しくて、精神的にも肉体的にも限界状況だったことと思います。まだまだ先は長いです。この2日間でゆっくり休養を…。
そして、この4日間を共に過ごした部員全員に「お疲れ様」と「また頑張ろう」の言葉を。

そう、私は嘘偽り無く、この部活と一緒に演奏している仲間達とそれらに巡り合わせてくれた何者かに感謝している。今一緒にいる仲間と音楽を作り上げることができることに喜びを感じている。これが今現在の、私のそのまんまの気持ちだ。
ありきたりでどこか無理してるようにもとれるかもしれないが、本当にそう思ってるんだからしょうがない。人間の語彙なんてある程度以上は多くなりはしないのだから、この気持ちを言葉でそのまま伝えるには無理がある。本当かどうか疑わしいと思うのならどうか私に直接会って確かめてほしい。部活大好きオーラが身体中から発せられていることだろうから。この合宿病の微熱がいつまでも下がらないことを私はひっそり願おうと思う。

2001/08/13(mon) 文責:まっでぃー

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